預言者ムハンマドの最後の説教:別れの訓戒
説明: 一年に一度、世界中のムスリムによってマッカで行なわれる巡礼であるハッジにおいて預言者ムハンマドが行なった、最後の説教について。
- より アマトッラー・アブドッラー(IslamReligion.com編集)
- 掲載日時 16 Aug 2010
- 編集日時 31 Oct 2024
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愛すべき預言者ムハンマド(彼に神の讃えあれ)は紀元後570年、現在のサウジアラビア王国領マッカにおいて生を受けました。彼は全人類へのよき模範であり、いつの時代においても傑出した存在でした。そして預言者であると同時に、統治者、哲学者、雄弁家、戦士、夫、父、叔父、孫、祖父として、人生のあらゆる面において優れていました。また彼は、世界中の何百万人もの人々に感動を与えた、愛と忍耐、知恵と寛容さ、理知と偉大さの人でもありました。
神はクルアーンにおいて、彼が全世界への慈悲として遣わされたと仰っています:
「われら(神のこと)はあなたを、全世界への慈悲として遣わしたのである。」(クルアーン21:107)
彼の預言者としての使命は、彼が40歳の時、つまりおよそ西暦610年頃に始まり、そして632年まで続きました。人々は無知の道から正しい道へと導かれ、神の導きによって祝福されたのです。
預言者ムハンマドは彼の死期も間近の頃、ハッジの際に、後に「最後の説教」として知られることになる説教を行ないました。この最後の説教は信徒への訓戒というだけでなく、重要な教訓をも含んでいました。そしてそれは、預言者としての使命の終焉を確認するものでもあったのです。
ヒジュラ歴10年は、3つの理由ゆえに最も重大な年であったと考えられます。まずその年、預言者はマッカへの別れの巡礼を行い、そこで最後の説教を行ないました。またこの年は、多くの代表団が預言者のもとを訪れ、自分たちの部族共々イスラームへと改宗した年でもありました。またこの年は、人々の集団が預言者のメッセージを受け入れることにより、信仰を受容したイスラームにとっての黄金期でもあったのです。
預言者ムハンマドはヒジュラ歴10年にマッカへと別れの巡礼を行ないましたが、これはムスリムの心において、最も重大な歴史的出来事です。というのもそれはハッジというイスラームにおける五番目の柱の実践モデルであったと同時に、預言者によって行なわれた最初で最後の巡礼でもあったからです。
預言者ムハンマドは西暦632年、太陰暦の12月であるズルヒッジャ月の9日目のハッジの最中‐それは一年を通して最も祝福に溢れた日です‐に、アラファにおいて最後の説教を行ないました。そしてこの説教が行なわれた別れの巡礼には、非常に多くのムスリムが預言者に同行していたのです。
最後の説教:
神を讃美し、そして感謝した後、預言者(神が彼を称えられますよう)は言いました:
「人々よ、よく聴きなさい。というのも私はこの年以降、再びあなた方と共にいられるかどうか分からないのですから。ゆえに私の言うことを注意深く聴き、この言葉を今日この場にいない者へと伝えるのです。
人々よ、あなた方がこの月、この日、この町を神聖であると見なすように、全ムスリムの生命と財産は神聖なる信託物なのです。あなた方が託された品物は、その正当なる所有者へと返還しなさい。またあなた方が害されないよう、他人を害してはなりません。あなた方が主と拝謁し、そして神があなた方の行いをお数えになることを思い出しなさい。また神は、あなた方が利子を取ることを禁じられました。ゆえに利子を伴う全ての義務は今後、あなた方の元手を除いて放棄されます。あなた方は他人を害することもありませんし、いかなる不公平を被ることもありません。神は利子の撤廃をお定めになられ、そしてアッバース・ブン・アブドルムッタリブに関する全ての利子も今後撤廃されるのです…
あなた方の宗教を守るため、サタンに注意しなさい。かれは、あなた方を大きな物事において迷妄に陥れることに絶望しています。ゆえに小さな物事において、かれに従うことに気をつけるのです。
人々よ、あなた方があなた方の女性に対しある種の権利を有しているのは確かですが、彼女らもまたあなた方に対する権利を有しているのです。あなた方が、あなた方の妻を神の信託とお許しのもとに自分のものにしたことを思い出すのです。彼女らがあなた方の権利を遵守する限り、彼女らには親切に衣食を施される権利が属します。あなた方の伴侶であり、献身的な援助者である女性に対しよく接し、親切にしなさい。また彼女らが貞節を守り、あなた方の望まないいかなる者とも仲良くしないことは、あなた方の彼女らに対する権利です。
人々よ、誠実に耳を傾けなさい。神を崇拝し、毎日5回の礼拝とラマダーン月の断食を行い、浄財を支払い、もし出来るならハッジを行うのです。
全人類はアダムとイブの末裔です。アラブ人が非アラブ人に、非アラブ人がアラブ人に優るなどということはなく、白い者が黒い者に、また黒い者が白い者に優る、などということもありません。敬虔さと善行を除けば、誰かが誰かに優る、などということはないのです。全てのムスリムは全ムスリムの同胞であり、ムスリムが同胞愛を構成することを知りなさい。快く、自ら望んでそうするのではない限り、ムスリム同胞に属する物を不当に損ねることは非合法です。そしてあなた方自身に不正を働いてはなりません。
思い起こしなさい。いつかあなた方は自らの行いと共に、神の御前に立つのです。ゆえに注意するのです。私が去った後、正しい道を見失ってはなりません。
人々よ、私の後には預言者も使徒も到来しません。また、いかなる新しい信仰もありません。ゆえに人々よ、私が伝える言葉をよく理解するのです。私は私の背後に、2つのものを残しました:クルアーンと、私の規範であるスンナです。それらを踏襲する限り、あなた方が迷い去ってしまうことはないでしょう。
私の言葉を聞いた全ての者は、それをまた別の者に伝えなさい。もしかすると後者の方が、私から直接聞いた者よりも、私の言葉を よく理解するかもしれないのですから。神よ、私があなたのメッセージをあなたの民に伝えたことにおける、私の証人であれ。」
こうして愛されるべき預言者は、彼の最後の説教を締めくくりました。そしてこのことに関し、アラファ山頂で以下の啓示が下ったのです:
「…この日、われ(神)はあなた方のためにあなた方の宗教を完璧にした。そしてわが恩恵をあなた方に完遂し、イスラームをあなた方の宗教として選んだのだ…」(クルアーン 5:3)
今日に至っても預言者ムハンマドの最後の説教は、あらゆる可能なコミュニケーション手段において、世界中の全ムスリムのもとへ届けられています。ムスリムはモスクで、そして講義場で、そのことについて想起させられるのです。この説教の中に見出される意味は実に驚愕すべきものであり、神の全人類に対する、そして人類のお互いに対する、最も重要な諸権利の一部について触れられています。預言者の魂はこの世を去ってしまいましたが、彼の言葉はまだ私たちの心の中に生き続けているのです。
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