イスラームにおける非ムスリムの権利(13/13):外国の侵略からの保護
説明: ジズヤを支払うことによって非ムスリムが享受することの出来る、外部勢力の侵略からの保護という権利について。
- より IslamReligion.com(サーリフ・アル=アーイド博士による執筆)
- 掲載日時 10 Dec 2012
- 編集日時 10 Dec 2012
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非ムスリムの市民はムスリムの市民同様、外敵からの保護を受ける権利を有します。ジズヤの支払いは外部からの侵攻、敵からの防衛、また敵から捕虜とされた際の身代金の支払いが保証されます1。
著名な中世イスラーム学者の一人、イブン・ハズムはこう記しています。
「もし我々が敵国に攻撃を受け、彼らが我々と共存する契約の民をも攻撃の対象とするなら、神と使徒が保護した契約の民を保護するために完全武装し、死を決意することは我々の義務である。それ以下のことをするか、または彼らを明け渡すのであれば、神聖なる約束の放棄として咎められることになるのだ。」2
ムスリムがズィンミー(イスラーム国家内に居住する非ムスリム庇護民)のために神聖な約束を果たしたことは、歴史上の多くの例が証言しています。預言者ムハンマドの教友アブー・ウバイダ・アル=ジャッラーフは、シリア征服軍の統率者でした。彼はシリアの人々とのジズヤの支払いの合意を成立させた人物です。
ムスリムの信仰深さと忠誠心を理解していたシリアに住む契約の民は、ムスリムの敵に対抗し、ムスリムたちを援助しました。各地の住民はビザンチンに対してスパイを送り込み、ビザンチンが軍隊を募っていることをアブー・ウバイダの司令官たちに伝えました。結果的に、ムスリムたちは彼らの保護を保証出来ない恐れがあると見込んだため、アブー・ウバイダは司令官たちにジズヤとして徴収したお金をすべて返金する旨を明確にし、次の手紙をシリアの人々に宛てて書きました。
「軍隊が送り込まれる知らせが届いたため、我々はあなたがたのお金を返却する。我々の合意の条件には、我々によるあなたがたの保護が盛り込まれていたが、そうすることが困難であるため、あなたがたから徴収したものをお返しする。もしも神が我々に勝利をお授けになれば、我々の合意は固守されよう。」
司令官たちがお金を返却し、既述の声明を伝えたとき、シリアの人々の反応は次のようなものでした。
「神があなたを再び我々の元に無事お返しになりますように。神があなたに勝利をお授けになりますように。もしビザンチンがあなたの立場だったのであれば、彼らは何一つ返却しなかったでしょうし、彼らは我々の所有物を片っ端から奪いとり、我々を身一つにしたことでしょう。」
ムスリムたちはその戦いに勝利しました。同盟軍の敗北を目撃した街の人々は、ムスリムたちと休戦の締結を望みました。アブー・ウバイダは休戦を結び、最初の協定で述べられていた全ての諸権利を彼ら全てにも提供したのです。彼らはまた、彼らの間に潜んでいるビザンチン人たちが家族や財産に危害を加えられることなく安全に帰国出来るよう要求し、アブー・ウバイダはそれに合意しました。
その後シリア人たちはジズヤを納め、街を開放してムスリムたちを歓迎しました。帰途にあったアブー・ウバイダは市民・村民の代表者たちと会い、彼らからも協定が結ばれるよう求められ、それに喜んで応じました3。
ムスリムによる非ムスリム市民の防衛のもう一つの例は、イブン・タイミーヤの行動から見出すことが出来ます。彼は捕虜の開放を求めてシリアを侵攻したタタール人の指導者の元を訪れました。タタール人の指導者はムスリムの捕虜の解放に合意しましたが、イブン・タイミーヤは異議を唱えました。
「我々はユダヤ教徒とキリスト教徒の捕虜たちも同様に全員開放されるまでは満足出来ない。彼らは契約の民である。我々は同胞であれ、契約下にある人々であれ、捕虜を見捨てたりはしない。」
彼はタタール人たちが彼ら全員を解放するまで粘り強く交渉し、それを実現させたのです4。
さらに、イスラーム法学者たちも、非ムスリムを外部の侵略から保護することは、内部の抑圧から守ることと同様の義務であると述べています。アル=マーワルディーは述べています。
「ジズヤの支払いは、契約の民に次の二つの権利を与える。彼らには第一に干渉を受けない平穏な暮らし、第二に保護が保証されるのだ。このようにして、彼らは社会における安全と、外部の脅威からの保護を受けるのである。」5
イスラームでは、非ムスリム市民への保護を放棄することは、悪行・抑圧の一形態であると見なします。神はこう述べています。
“…われは、あなたがたの中、悪を行う者に、懲罰を味わせるであろう。”(クルアーン25:19)
契約の民に危害を加えること、抑圧することは重大な罪であると見なされるのです。彼らとの協定を守ることは、ムスリムのカリフとその代表者たちによる義務なのです。預言者は審判の日、彼らに危害を加える者たちに対し、ズィンミーの弁護をすると約束しています。
「用心せよ!誰であれ非ムスリムの少数派に対し無慈悲・辛辣である者、彼らの権利を侵害する者、彼らが耐えうる以上の重荷を背負わせる者、または彼らの意思に反して彼らの物を奪うのであれば、私(預言者ムハンマド)は審判の日、そうした人物の不平を唱えるであろう。」(アブー・ダーウード)
イスラーム法のすべての根拠は、契約の民を保護する点において合意します。著名なイスラーム学者、アル=カラーフィーはこう記しています。
「契約とは、我々にそれを義務付ける条件を有する契りであり、神と使徒の契約、そしてイスラームの教えによって彼らは我々の保護下に入り、隣人となるのである。もし誰かが不適切な言葉、中傷、あるいはいかなる種類の迷惑であれ彼らに危害を加えるのであれば、その人物は神、その使徒、そしてイスラームの契約を軽んじているのである。」 6
イスラームにおける第二代正統カリフであるウマルは、彼に接見に来る属州からの訪問者たちに現地での契約の民の状況について尋ね、こう言ったものでした。「我々は、協定が依然として守られているかどうかを知りたい。」7また、彼は死の床においてこう言ったことが報告されています。「私の後にカリフを継ぐ者に対し、契約の民に良い処遇を与え、協定を維持し、彼らに危害を加えようとする者たちと戦い、彼らに重荷を背負わせないよう、命じるのだ。」8
イスラーム学者たちによる著作、そしてムスリムの統治者たちの行為は、こうした非ムスリムの権利に対する最初期からのイスラーム的責務を実証しているのです。
Footnotes:
1 Some parts of this article are taken from the books: ‘Ghayr al-Muslimeen fil-Mujtama’ al-Islami,’ by Yusuf Qaradawi and ‘Huquq Ghayr is-Muslimeen fid-Dawla al-Islamiyya,’ by Fahd Muhammad Ali Masud.
2 Qarafi, ‘al-Furuq,’ vol 3, p. 14
3 Abu Yusuf, Kitab al-Kharaj, p. 149-151
4 Qaradawi, Yusuf, ‘Ghayr al-Muslimeen fil-Mujtama’ al-Islami,’ p. 10
5 Mawardi, ‘al-Ahkam al-Sultaniyya,’ p. 143
6 Qarafi, ‘al-Furuq,’ vol 3, p. 14
7 Tabari, Tarirk al-Tabari, vol 4, p. 218
8 Abu Yusuf, Kitab al-Kharaj, p. 1136
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