イスラームにおける非ムスリムの権利(2/13):
説明: イスラーム国家における非ムスリム社会と、イスラームにおける非ムスリムの一般的権利について。
- より IslamReligion.com(サーリフ・アル=アーイド博士による執筆)
- 掲載日時 05 Nov 2012
- 編集日時 05 Nov 2012
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イスラームが他宗教の存在を許すことについては、様々な議論が繰り広げられてきました。イスラームが現実に説いていること、そして非ムスリムが実際にムスリム諸国に住んでいることを知らずに、ムスリムはすべての人々がイスラームを受け入れるまで戦い続けるのだという一部の意見は、イスラームに対する嫌悪感を作り出しています。
ムスリム社会に居住する非ムスリムは、三種類に分類されます。これらの分類を理解することは、イスラーム社会におけるムスリムと非ムスリムの関係についての理解を深めることに役立つはずです。
非ムスリムの分類
1.永住者
イスラーム法学者たちは非ムスリムの居住者たちを「契約の民」(アラビア語で「ズィンミー」、または「アハルッ=ズィンマ」)という用語で言及します。それは一部の人々が見なすような軽蔑的な用語ではありません。アラビア語の「ズィンマ」はムスリムの領土に住む非ムスリムのための保護条約を意味し、類似用語である「アハルッ=ズィンマ」は「契約の民」を意味し、それは預言者ムハンマドとムスリムたちによって差し伸べられた契約によって彼らが保護の対象となったことに基づいています1。非ムスリムはムスリム社会において、人頭税を支払い、イスラーム法において述べられる特定の法令を遵守する限りは保護が保証されます。この保護契約は特定の期間に限定されるものではなく、その対象となる人々が条件を満たす限り有効であり続けます2。「ズィンミー」という用語に潜む良き意図は、カリフ・アブー・バクル・アッ=スィッディークによるナジラーンの非ムスリムに宛てられた書簡から、うかがい知ることが出来ます。
‘慈悲あまねく慈愛深き神の御名において。本書は神の使徒、預言者ムハンマドの後継者、神の僕アブー・バクルによってしたためられたものである。彼(預言者)は保護を受ける隣人の権利をあなたがた自身、あなたがたの土地、あなたがたの宗教共同体、あなたがたの富、保有物、召使い、あなたがたの内の在住者、不在者、あなたがたの修道僧、聖職者、修道院を含むすべての所有物に対してその大小を問わず確約する。あなたはその中のいかなるものを奪われることも、また所有を制限されることもない・・・’4
もう一つの例としては、著名なイスラーム学者であるイマーム・アル=アウザーイー5による、アッバース朝の総督サーリフ・ブン・アリー・ブン・アブドッラーへ宛てられた、契約の民についての書簡があります。“彼らは奴隷ではない。したがって、自由民である彼らの身分を変更することについて注意しなさい。彼らは契約の民なのである。”6
その事実を認知して、ロン・ランドーはこう記しています。
‘被支配民にキリスト教への改宗を強制したキリスト教帝国とは対照的に、アラブ人たちは宗教的少数派を認知し、彼らの存在を受容しました。ユダヤ教徒、キリスト教徒、ゾロアスター教徒は契約の民として知られるようになりました。言い換えるなら、諸国家は地位の保護を享受することが出来たのです。’7
2.寄留者
この分類には二種類があります。
1)非ムスリム国家の居住者で、ムスリム国家に出稼ぎ、留学、ビジネス、外交的任務などによって一時的に滞在する中、決められた和平条約、国際協定、その他の機構によってムスリム側と和睦している者たちのこと。イスラーム法学者たちは彼らのことをアラビア語で「協定を締結した者たち」を意味する「ムアーハドゥーン」として言及します。
2)非ムスリム国家の居住者で、ムスリム国家に出稼ぎ、留学、ビジネス、外交的任務などによって一時的に滞在するも、ムスリム側との和平条約が結ばれていない者たち、またはムスリム側と戦争状態にある者たちのこと。イスラーム法学者たちは彼らのことをアラビア語で「保護を求める者」を意味する「ムスタアミヌーン」として言及します。
各種には共通する一般的権利があり、各種限定の権利もあります。ここでは過剰な詳細に触れることを避け、最も一般的かつ共通の権利についてのみ言及します。
非ムスリムの一般的権利
「人権」という言葉は比較的新しい表現であり、第二次世界大戦が終った1945年の国連の創立後、1948年の国連総会の世界人権宣言によって日常的に使われ始めました8。国際法における登場は比較的新しいものですが、人権という概念そのものは新しくはありません。1400年以上も前にイスラームによってもたらされた人権と、国連による世界人権宣言について調査・比較するのであれば、イスラームによって成し遂げられた極めて高い水準の倫理について明確に知ることが出来るでしょう9。この倫理規範は人間の知的努力によってもたらされたのではありません。イスラーム的倫理の源泉は神そのものなのです。神による規範は、人類の必要性に対する真の普遍性と深みを与えます。それは人類を益するものすべてを提供し、いかなる害からも守ります。客観的な研究からは、このような結論が導き出されるはずです。「これらの権利に寛大な配慮をし、確証し、詳細を述べ、明確にし、表現し得る宗教、または倫理規範は、地球上にはイスラーム以外に存在しないのです。」10
イスラームの法的・倫理規定であるシャリーアは、ムスリムだけに権利を与えるに留まりません。その特筆すべき特徴の一つとして、非ムスリムがその権利の多くを共有することが挙げられます。事実、原則としては非ムスリムもムスリムと同じ権利と義務を有します11。こうした宗教的一面はイスラーム独自のものであり、おそらくいかなる世界宗教からも同様のことを見出すことは出来ないでしょう。例えばキリスト教を見てみると、トロント大学のジョセフ・ヒース教授はこのように述べています。「バイブルを徹底的に調査しても、「権利」という単語が一度たりとも言及されていないことなど言うまでもないでしょう。その後のキリスト教思想の1500年間を掻い摘んでみても、いかなる権利を見出すことも出来ないでしょう。なぜなら、権利といった概念そのものが完全に欠如しているからです。」12
非ムスリムはイスラームにおいて多くの権利を有します。ここではその中でも最も重要な物である、信仰の自由、働く権利、居住の権利、移動と教育の自由に絞って焦点を当てます。
Footnotes:
1 Zaydan, Dr. Abd al-Karim, ‘Ahkam al-Dhimmiyin wal-Musta’minin,’ p. 20
2 Zaydan, Dr. Abd al-Karim, ‘Ahkam al-Dhimmiyin wal-Musta’minin,’ p. 35
4 Abu Yusuf, Kitab al-Kharaj, p. 79
5 アル=アウザーイー(ヒジュラ暦157年/西暦774年没):正式名アブー・アムル・アブドッラフマーン。彼はマーリク法学派になる以前の西アフリカにおいて従われていた法学派のイマームであり創立者で、ベイルートの港町で亡くなるまでシリアで生活していました。彼は同時代におけるシリアのイスラーム法における主たる権威でした。彼はムスリム共同体の「生きた伝統」を権威ある法源として非常に重要視しました。彼の法学派は北アフリカとスペインに広まりました。彼はベイルート近郊に埋葬されています。
6 Abu Ubayd, al-Amwaal, p. 170, 171
Zaydan, Dr. Abd al-Karim, ‘Ahkam al-Dhimmiyin wal-Musta’minin,’ p. 77
7 Landau, R, ‘Islam and The Arabs,’ p. 119
8 “Human Rights.” Encyclopedia Britannica. 2006.
9 Refer to Ghazali, M, ‘Human Rights: The Teachings Of Islam vs. The Declaration of the United Nations.’
10 Mutajalli, R.J.H., ‘Liberties And Rights In Islam,’ p. 22-23
11 Zaydan, Dr. Abd al-Karim, ‘Ahkam al-Dhimmiyin wal- Musta’minin,’ p. 62
12 Heath, Joseph, ‘Human rights have nothing to do with Christianity,’ Montreal Gazette, March 18, 2003
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