クルアーンは反ユダヤ主義なのか(前半):選ばれた民族、セム族(選民思想)

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説明: クルアーン、イスラーム、そしてムスリムが反ユダヤ主義だという主張の概観。前半:セム族という名称、そして神のユダヤ人への恩寵について。

  • より M.アブドッサラーム (ゥ 2011 IslamReligion.com)
  • 掲載日時 21 Nov 2011
  • 編集日時 22 Sep 2019
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Is_the_Quran_Anti-Semitic_(part_1_of_2)_001.jpg今日において、一部の集団は、クルアーンが反ユダヤ主義であると豪語します。それによって一部の翻訳本が、アメリカ合衆国の複数の学区で禁書とされるまでに至っています。1ユダヤ百科事典では、反ユダヤ主義の定義としてこのように書かれています:

“「反ユダヤ主義」という用語は、ユダヤ人はセム族として、アーリア人またはインド・ヨーロッパ語族とも異なる、彼らとは混合の出来ない人種であるという民族学的な仮説に基づく。この言葉は、ユダヤ人が差別されるのは宗教によるものではなく、人種的特徴によるものであることを意味している。”2

この記述から、クルアーンは反ユダヤ主義ではないことを私たちは直ちに理解することが出来ます。ユダヤ人を譴責する節々は、彼らが宗教上犯した特定の悪行のことであり、彼らの人種的なものではないのです。

セム族とは

聖書によるセム族に関する一般的な意味付けとして、彼らはノアの三人の息子の一人、セムの子孫であるとされ、彼が長男か三男かで学者間の意見が異なりますが、最初に言及される者としては共通しています。3セムの家にはシェキーナー4が宿っていたとされ、また彼はバイブルの中でも飛び抜けて称賛と祝福をされている人物です。「…バイブルにおける分類によると、アラブ人、バビロニア人、アッシリア人、アラム人、ヘブライ人は皆セムの子孫であるセム族と見なされいます。」5近代学者たちは言語的起源も重要視するため、上記に加えアビシニア人、フェニキア人、カナン人、ヘブライ人、モアブ人、エドム人もそこに含まれるとします。

どのような文脈上であれ、アラブ人もヘブライ人(及びユダヤ人)と同様、セム族に含まれることは明白です。したがって、クルアーンが反ユダヤ主義(反セム主義)であると言うことは、クルアーンがアラブ人を含む全セム族を、他民族よりも劣った民族であると言うことと同じなのです。神はそれらの民族に諸預言者を遣わしているため、これは有り得ないことです。

ユダヤ教における律法学の書物においては、セムによる聖職はアブラハムに受け継がれたとされ、ユダヤ人たちはこの世襲から自分たちがカナンの地(現在のパレスチナ)の選ばれた相続者であり、所有者であると受け取っています。彼らはシェキーナーがアブラハムからイサクを始めとするその子孫に受け継がれたと主張するため、神によるセム族への恩寵は彼ら独自のもの―詳しく言えばアブラハムの子であるイサクの別称でもある(古代)イスラエル人に対するもの―であるとします。

「選ばれた民」セム族

クルアーンは古代イスラエル人を劣った民として描写するのではなく、人類の中でも優れた地位を有していたことを断言しています。これはアブラハムによる甚大な献身と、神の選んだ自らの子孫を預言者にして欲しいと願った彼の神への祈りによるものです。アブラハムは神へこのように呼びかけています:

“われはかれ(アブラハム)に(子)イサクと(孫)ヤコブを授けて、それぞれ導いた。先にノアも導いた。またかれ(アブラハム)の子孫の中には、ダビデと、ソロモン、ヨブ、ヨセフ、モーゼ、アロンがいる。われはこのように善い行いをする者に報いる。またザカリヤ、ヨハネ、イエスとエリヤがいる。それぞれみな正義の徒であった。またイシュマエル、エリシャ、ヨナとロトがいる。われはかれらを、皆世に秀でた者とした。またかれらの祖先と子孫と兄弟の中、われはかれら(のある者)を選んで正しい道に導いた。これは神の導きであり、かれはそのしもベの中から、御好みになられる者を導かれる。もしかれらが(神々をかれと)並べたならば、凡ての行いは、かれらにとって、虚しいものとなろう。これらの者はわれが、啓典と識見と預言の天分を授けた者である…”(クルアーン6:84−89)

古代イスラエル人が選民であるのは、神が彼らの中から諸預言者を輩出すると決めたからです。クルアーンは多くの箇所でこの恩寵について言及し、古代イスラエル人にそのことを思い起こさせます:

“イスラエルの子孫たちよ、われがあなたがたに与えた恩恵と、(わが啓示を)万民に先んじ(て下し)たことを念い起せ。”(クルアーン2:47、2:122)

“本当にわれは、イスラエルの子孫に啓典と英知と預言の天分を授け、様々の善い給養を与え、また諸民族よりも卓越させた。”(クルアーン45:16)

神は諸預言者という祝福に加え、マンナ、サルワー6という天国の食物を彼らに与えるという恩寵を与えました:

“イスラエルの子孫よ、われはあなたがたを敵から救い、また(シナイ)山の右側であなたがたと約束を結び、マンナとウズラ(サルワ)をあなたがたに下した。”(クルアーン20:80)

神はモーゼを遣わすことにより、彼らをファラオの蛮行から守りました。モーゼは彼らと紅海を渡り、“祝福の地”であるカナンへと導きました:

“われは無力と思われていた民に、われが祝福した東と西の各地を継がせた。(よく)耐え忍んだために、イスラエルの子孫の上に、あなたの主の善い言葉が全うされた。そしてわれはファラオとその民がうち建てたもの、また築造していたものを破壊した。”(クルアーン7:137)

古代イスラエル人に与えられたこれらの恩寵は、記述されたように、彼らが人種的に優位であるからではなく、アブラハムによる大きな犠牲によるものと、彼の祈願に神が応えたからであり、この恩寵は古代イスラエル人が神と結んだ契約を守り続ける限りにおいて与えられたものだったのです。

“神は、以前にイスラエルの子孫と約束を結ばれ、われはかれらの中から12人の首長を立てた。そして神は仰せられた。「本当にわれはあなたがたと一緒にいるのである。もしあなたがたが礼拝の務めを守り、定めの喜捨をなし、われの使徒たちを信じて援助し、神によい貸付をするならば、われは、必ずあなたがたの凡ての罪業を消滅し、川が下を流れる楽園にきっと入らせよう。今後あなたがたの中、これ(約束)を信じない者は、正しい道から迷い去る。”(クルアーン5:12)



Footnotes:

1 CAIR distributes Quran banned as anti-Semitic. By Art Moore © 2005 WorldNetDaily.com. (http://www.worldnetdaily.com/news/article.asp?ARTICLE_ID=44543).

2 Anti-Semitism. Gotthard Deutsch. The Jewish Encyclopedia (http://www.jewishencyclopedia.com/view_friendly.jsp?artid=1603&letter=A).

3 Shem. Emil G. Hirsch, Ira Maurice Price, Wilhelm Bacher, M. Seligsohn. The Jewish Encyclopedia (http://www.jewishencyclopedia.com/view.jsp?artid=592&letter=S).

4 「神の顕現」を意味する言葉で、その正確な実体に関してバイブル学者たちは見解を異にします。参考:Shekinah. Kaufmann Kohler, Ludwig Blau. The Jewish Encyclopedia (http://www.jewishencyclopedia.com/view.jsp?artid=588&letter=S).

5 Anti-Semitism. Gotthard Deutsch. The Jewish Encyclopedia (http://www.jewishencyclopedia.com/view_friendly.jsp?artid=1603&letter=A)

6  出エジプト記16にも同じような記述があります。

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クルアーンは反ユダヤ主義なのか(後半):契約の遵守

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説明: クルアーン、イスラーム、そしてムスリムが反ユダヤ主義だという主張の概観。後半:選民とは、いかなる人々のことをいうのでしょうか。

  • より M.アブドッサラーム (ゥ 2011 IslamReligion.com)
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戒律を守ることに対する神の恩寵

既述されたように、古代イスラエル人に対する神の恩寵は、彼らが神と結んだ契約を守るという前提で与えられていました。この事実は、ユダヤ人たち自身によっても述べられています:「我々によるトーラーの受容によって、我々ユダヤ人は神にとって特別な地位が与えられているが、我々がトーラーを破棄したとき、その地位は失われてしまうのである。」1

それゆえ、神の恩寵とは人種的な見地から来るのではなく、永久に続くものでもないことが分かります。実際には、戒律を遵守する者にこそその恩寵が与えられるのです。戒律を守らないイスラエル人は、こうした恩寵に沐することはありません。

神との契約を破ったユダヤ人

神はクルアーンの様々な箇所において、ユダヤ人が宗教上の数々の罪悪により、神との契約を反故にしたことを言及しています。それらの罪悪とは、誤信に陥ったり、神に同位者を配して崇拝したり(十戒の違反2)、彼らの都合の良いようトーラーを改変したり、意味をすげ替えたりといったものでした。3神はその慈悲から、彼らを正しき道に戻すため、諸使徒を遣わし続けました。諸使徒がラビたちにとって好ましくないものをもたらすと、彼らは神の諸使徒に従うどころか拒絶し、殺害さえしました。これは明らかに神への不信仰から来るものであり、こうして神の恩寵は彼らから遠ざけられたのです。神はクルアーンにおいてこのように述べています:

“かれら(ユダヤ人)はどこに行っても、屈辱を受けるであろう。神から(保護)の聖約を授かるか、人びとと(攻守)の盟約をしない限りは。かれらは神の怒りを被むり、貧困に付きまとわれよう。これはかれらが、神の印を信じずに、正義を無視して預言者たちを殺害したためである。これはかれらが反抗して法を越えていたためである。”(クルアーン3:112)

ユダヤ人が諸使徒を殺害したことは、バイブルの第一テサロニケの信徒への手紙2:15、使徒行伝7:52によっても述べられています。また、ローマの信徒への手紙11:3においても、預言者エリヤがイスラエル人たちに関して主にこう嘆願したことが分かります:

“主よ、彼らはあなたの預言者たちを殺し、あなたの祭壇を壊しました。そして、わたしだけが残りましたが、彼らはわたしの命をねらっています。”

これらの罪の中でも最も重大なものは、ユダヤ人に対して遣わされた明確な印であり、奇跡でもあったイエスの拒絶です。この預言者を通して、民族としてのユダヤ人に対する神の恩寵は、怒りと懲罰に置き換えられたのです。「選民」として残った唯一のユダヤ人たちは、イエスに従った、後のナザレ派のキリスト教徒たちでした。4

キリスト教徒は神の選民なのか

ユダヤ教徒とは異なり、キリスト教徒とムスリムが合意する事実には、神の寵愛が特定の民族に限定されるものではなく、神との契約を守る者に対してのものであるということがあります。イエスはユダヤ人たちに遣わされましたが5、キリスト教は歴史を通し、自らを全人類に向けた宗教であると見なして来ました。キリスト教徒たちは、イエスの教えを受け入れる者は誰しも神の愛、慈悲、恩恵を受けますが、拒否するものは地獄に落ちる運命であるとします。

ムスリムもこの点に関しては同意しますが、現実問題として、イエスは追従者たちに対してユダヤ教の戒律を守るよう命じています。それはつまり、神のみが崇拝に値するというものであり、キリスト教徒たちはこのイエスの教えを実際には守っていません。キリスト教徒がイエスを崇拝し、彼に神性を帰属させたことが、神の怒りを招き、寵愛を逃した理由のひとつなのです。

その他の人々への懲戒

クルアーンにおいてユダヤ人が懲戒されている節を分析してみると、既述したように、そこでは彼らが破った特定の戒律を中心に展開していることが分かります。そして特定の懲罰が彼らに対して割り当てられたのです。こうした懲戒はユダヤ人だけに対するものではなく、クルアーンとスンナによって、ムスリムをも含む、神の戒律を破った歴史上の者すべてに広く適用されています。神は、他のムスリムを意図的に殺害したムスリムに関してこう述べます:

“だが信者を故意に殺害した者は、その応報は地獄で、かれは永遠にその中に住むであろう。神は怒ってかれを見はなされ、厳しい懲罰を備えられる。”(クルアーン4:93)

クルアーンにおいて見出すことの出来るこれらの節々は、神の戒律を破るあらゆる人々に対して語りかけているものであり、それは特定の民族や人種に対するものではありません。同様に、神による選好と寵愛を受けることの出来る唯一の要素とは、信仰深くあることなのです。自らの宗教に忠実なユダヤ教徒、キリスト教徒、そしてその他すべての人々は、皆天国に行くことが神によって述べられています:

“本当に(クルアーンを)信じる者、ユダヤ教徒、キリスト教徒とサービア教徒で、神と最後の(審判の)日とを信じて、善行に勤しむ者は、かれらの主の御許で、報奨を授かるであろう。かれらには、恐れもなく憂いもないであろう。”(クルアーン2:62)

しかし、自らの宗教の戒律に従わず、イスラームを信じない人々は、地獄が運命付けられます。なぜならイスラームは、預言者ムハンマド(神の慈悲と祝福あれ)に下された神による最終啓示であり、神によって認められている唯一の宗教であるからです。

“啓典の民の中(真理を)拒否した者も、多神教徒も、地獄の火に(投げ込まれ)て、その中に永遠に住む。これらは、衆生の中最悪の者である。”(クルアーン98:6)



Footnotes:

1  (http://www.jewfaq.org/gentiles.htm)

2 出エジプト記32、クルアーン7:148。

3 クルアーン2:75。

4 使徒行伝24:5で、テルティロはパウロのことを「ナザレ人の分派の主謀者」であると言いましたが、実際にはナザレ派教会は初代エルサレム主教の「義人ヤコブ」によって取り仕切られたものでした。

5 マタイ15:24:“イエスはお答えになった。「わたしはイスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていないのだ。」”

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